ガンマカメラ

開発の背景

図1

福島原発の事故により大量の放射性物質が環境中に放出され、周辺地域においては放射性物質の除染が緊急かつ重要な課題となっています。除染を効率的に行うためには、放射性物質の集積(いわゆるホットスポット)を可視化する必要があり、そのための装置が相次いで開発されています。ガンマ線の飛来方向を識別することで放射性物質の分布を計測するガンマ線可視化装置(ガンマ線カメラ)には、ピンホールカメラの原理によりガンマ線の飛来方向を識別するピンホール方式と、ガンマ線が物質中の電子と衝突して散乱されるコンプトン散乱を利用したコンプトンカメラ方式とがあります。ピンホール方式カメラは構造が簡単で既に2社から発売されていますが、視野外からのバックグラウンドガンマ線を減らすための重厚な遮蔽体(鉛3cm程度)が必要で、一般に10kg を大きく超える装置が殆どです。そのために携行が困難で、現場環境での使用には適していません。一方、コンプトンカメラ方式は原理的に遮蔽体を必要としません。現在開発が進められている直接検出型半導体検出器を用いたコンプトンカメラは、ガンマ線検出位置の不定性が小さく、エネルギー分解能が高いことから比較的良好な角度分解能が得られています。しかしながら、エネルギーの高いセシウム137からの662keVガンマ線に対する感度は低く、そのため長時間の計測が必要となるという問題点があります。また、検出器からのデータ読み出しチャンネル数が膨大で冷却が必要な点も懸念材料です。このような背景から、小型軽量でありながら高感度(短時間)で放射性物質の分布を計測できるガンマ線可視化装置の開発が求められています。

開発の目標

このような背景から、片岡研究室では JST先端計測技術プログラムのご支援のもと、浜松ホトニクス社と共同で革新的ガンマ線可視化装置の開発を行っています。2013年度末までに、従来技術では実現困難であった、小型軽量で携行(携帯)性に優れ、かつ十分な高感度と角度分解能を有するガンマ線可視化装置(ポータブル型コンプトンカメラ)を開発します。我々の採用する方式はコンプトンカメラですが、散乱体・吸収体ともに(半導体検出器でなく)無機シンチレータ(たとえばCe:GAGG結晶)を採用します。一般に、シンチレータは容易に厚みを稼ぐことが可能で、ガンマ線に対する感度を高めることができます。一方で、ガンマ線の反応位置が不定のため、良好な解像度を得ることが困難な問題がありました。我々は、独自の方式を用いてガンマ線の反応位置情報を3次元的に、1mmの精度で解像する手法を確立し、これをコンプトンカメラに応用することに成功しました。すなわち、シンチレータの感度を損なうことなく、解像度を10deg(FWHM)以下にまで向上することができます。

図2

試作化の現状

数々の実験室実験および試作化を経たのち、浜松ホトニクス社において携帯ガンマカメラ(プロトタイプ)を製作、すでに2回の現地試験を行っています。カメラの重量は 1.9kg 、大きさは 13x14x15cm と極めて小型ですが、わずか数分でホットスポットの特定ができることが実証できました。今後は、これらカメラの開発現状について、逐一web 上でも報告していく予定です。   (以下、開発したプロトタイプの概観)

図3
図4